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【嫉妬の罪】キリスト教信者への戒め?「カルメン」 に見る破滅愛の代償
「カルメン」は、スペインが舞台の作品ですが、原作はフランスの作家プロスペル・メリメが1845年に発表したあまりにも有名な中編小説です。
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実際に、スペインで起こった事件を基にしています。
本作品のテーマはやはり愛と嫉妬。いままで紹介した映画のヒロインの愛を比較すると、
フアナのように一人の男性を一途に愛する女性もいれば、
フリーダのように数多くの恋愛を楽しみつつ、結局のところ、最後まで一つの愛を貫く女性もいました。
このように、フリーダやフアナは、愛し方の形に違いはあれども、一人の男性への愛を貫いたという意味では共通していました。
しかし、このカルメンは違います。その時々で出会った男性を、その瞬間は激しく情熱的に愛するのですが、哀しいことに自由奔放に生きる女カルメンの愛は、長くは続かないのです。“心変わり”、これこそが悲劇の根本でした。
男性にとって危険な、まさに魔性の女“カルメン”を演じたのは、黒い目、眉、髪、そして、白い肌、歯…(バスク美人の条件だそうですが)で、スペインの女優さんの中でもわりと有名なパス・ヴェガ。
ガルシア(片目で凶暴)という夫がいますが、手練手管に長け、類まれな美貌で男性を虜にし、情熱的で激しい恋に燃えるが心変わりしやすく、決してカゴの中にとらえておけない自由奔放なジプシー女という役どころです。
カルメンに誘われたホセは、路地裏にある家に行き、忘れられない夜を過ごすのです。ホセにとって、カルメンは、初めて愛した女性でした。
以来、ホセはカルメンの虜になり、危険な女だとわかってはいるものの、寝ても覚めても彼女のことが頭から離れなくなるほどまでに。そしてついにホセはカルメンを愛するがゆえに、ある大きな犯罪に手を染めてしまいます。
一方のカルメンもカルメンで、ホセを咎めたりはせず、あらゆる悪事の手引をするのです。
こうしてふたりの破滅愛はますます泥沼へ。
こんなふたりの愛に亀裂が走ったのは、勝手気ままに生きたいと願うカルメンが、やがてスペインで最も有名な闘牛士の愛人をつくってからでした。
このブログで、今まで女性の嫉妬について取り挙げてきましたが、男性の嫉妬も馬鹿にできないと思いました。
嫉妬に狂ったホセは、
「おれだけを愛するように」
と、振り向かないカルメンを、無理やり振り向かせようと意地になります。
しかし、カルメンは冷たく
「愛していないのに、愛しているだなんていえない!」
と言い放ち、ホセとの愛の証である指輪を投げ捨てるのです。
他に好きな男性ができる(気持ちが冷める)と同時に急に態度を変える。
ホセはみごとにカルメンの「燃えるように情熱的であるが、短く儚い愛」と「突然の心変わり」に振り回されたのでした。
「愛」は一瞬にして憎へと転換される要素を多分に孕んでいますが、愛するがゆえにホセはついにカルメンを・・。
ようやくホセは、皮肉にも愛するカルメンを“自分のもの”にすることができたのでした。
キリスト教信者への戒め?
キリスト教においては、異なる四つの愛のうち、男女の性愛(エロス)を戒め、それに対立する愛の概念として、とくに、「よき愛」=聖霊による真の愛=神への愛(アガペー)の大切さを説きます(アガペーは他の三つの人間的な愛(条件のある、特定の人の身を対象とする愛)とは異なり、すべての人を愛し、人を差別しない愛です)。そのため、スペインなど、敬虔なカトリック教徒の多い国の映画や文学などでは、やたら多く、こうした「狂った愛」=世俗の男女の愛に溺れ、自らの身をぼろぼろに滅ぼしてしまう男女の恋愛、いわば破滅愛を、信者たちへの“戒め”として描いたのでしょうか。
ここで私が紹介しているスペインの映画や文学作品の中でも、「ラ・セレスティーナ」「女王フアナ」「マルティナは海」「ハモンハモン」などもその類であり、現代にまでも通じるテーマとなっています。勿論、それぞれ犯した罪は異なりますが、どの男女も愛に付随する八(七)つの大罪のいずれかを犯し、必ずなにかしら罰を受けるという流れです。本作品(映画「カルメン」)も例外ではなく、一時の「愛欲」に溺れ、「嫉妬」に狂う男女の破滅愛が描かれます。ストーリー的に、後味が悪いのですが、終始スペインらしい情熱的な作品です。

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