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映画「女王フアナ」に見る女の”狂愛”ーMadness of Love 【愛と嫉妬は紙一重】
スペインの映画「女王フアナ」(Juana la loca)を紹介します。
「狂女」と呼ばれた「女王」
「狂女とよばれてもいい。あなたへの愛を貫くために。」
気が狂いそうになるほど激しく一途に誰かを愛したことはありますか?
Loca! Estoy loca!
(Crazy! I’m crazy!)
狂ってる!私は狂ってるのよー!(映画「女王フアナ」より)
私にとって、フアナのあの壊れぶりは凄まじ過ぎました。
普通は、心の中で思っていても理性で抑えたり、なかなか表には出すことができない人間の内的感情を、そのまま”ありのままに映像化“したようで、ある意味、輝いて見えたほどです。
愛と嫉妬は紙一重、女の嫉妬は云々…
とはよく言われますが、宮廷内で、人目も憚らず嫉妬に狂う姿を露にするフアナ。
当時、ましてや王家の娘がここまで人前で感情を露にする(しかも、その理由が嫉妬であるという)ことはあってはならないことでした。良くいえば、情熱的なのですが。
こうして、フアナは、映画のタイトル(Juana La Loca)にもなっているように、「狂った(Loca)女王」、すなわち「狂女」と呼ばれるようになりました。
スペインの女王フアナ
主人公フアナは、15世紀末、スペインを統一したカトリック両王(カスティーリャ女王イサベル1世と、アラゴン王フェルナンド2世)の娘であり、カスティーリャ、アラゴン王国の女王です。
1496年(16歳の頃)に、フアナは策略結婚のため、フランドルの名門ハプスブルク家のフェリペ・エル・エルモソに嫁ぎました(当時、スペイン含むヨーロッパでは激しい国取り合戦が白熱している動乱の時代であり、「政略結婚」が頻繁に行われていました)。
ちなみに、子どもには恵まれ、カルロス1世を初めとする6人の子どもを産むなど、少なくとも、みかけ上は、夫婦円満でした。しかし、幸せは長く続きませんでした。
結婚数年後は、夫フェリペ(美貌の貴公子と称されるほどの容貌だったとか)の女癖の悪さと嫉妬に苦しみ、愛ゆえに常軌を逸するような行動に走ったことから、
その名の通り、(映画でも描かれたように)「狂女」という烙印を押され、75歳で亡くなるまで、生涯の3分の2はトルデシージャスの城に幽閉されて過ごしたとされています。
女優 ピラール・ロペス・デ・アジャラ
本作品「女王フアナ(Juana La Loca)において、主人公フアナを演じた、ピラール・ロペス・デ・アジャラは、1978年生まれの(この映画の製作時は22か23歳くらい)スペインでも有名な女優さんです。
この映画で、「一途な狂おしい愛」ゆえに「狂気」を漂わせる愛を天才的に演じ、見事にゴヤ賞(スペインのアカデミー賞にあたる)の主演女優賞を獲得しました。
キリスト教の7つの大罪ー最も厄介な「嫉妬」の罪
キリスト教において知られる概念として、愛には、7(8)つの罪(原罪)が付随するとされます。つまり、
「嫉妬」の罪を犯してしまう背景には、とくに「誤謬(誤り)の愛」、「不完全な愛」、そして、「過度な愛」があるとされます。
また、
『嫉妬の度合いは愛に比例する』
『愛と嫉妬は紙一重』
ともいわれるように、愛が深ければ深いほど、嫉妬心は強く深く発生し、同時に、(嫉妬心が大きければ大きいほど)相手に対する憎しみも増すのです。
本作品は、このように(舞台は中世ながらも現代にまでも通じる)「女の愛と嫉妬」をテーマにし、夫を愛し過ぎたばかりに、 (キリスト教でいう)「嫉妬」という大罪を犯し、
果ては”狂女”の烙印を押され、結局は相手や周りの人間だけではなく、自らの身(人生)をも滅ぼしていく女(女王=狂女フアナ)の生涯が赤裸々に描かれます。
「狂っている」の意味
ただし、本作品において“狂っている”といっても、決して彼女の「狂気」をいわゆる『精神障害などにより心が病んでいる(あるいは常軌を逸してしまった)』という意味で使われているわけではなく、一人の女性が、浮気癖のある夫を、狂いそうになるほど激しく一途に”愛しすぎた結果、嫉妬のあまり常軌を逸した行動に走ってしまう(しかし自らの感情を抑制できない)という、要は、女の嫉妬という感情の激しさに対しての形容です。
実際に、フアナは、度重なる夫の裏切りにより、プライドをずたずたにされ、深く傷つき、はらわたが煮えくりかえるほどの憎しみを感じ、愛と憎しみの間で葛藤しつつも、結局のところはやはり女として、裏切り者の夫でさえも愛さずにはいられないのです。
「追えば逃げる」
この習性がなんでわからないのか!と思いつつ見ていましたが(笑)。心に余裕がなく、ありとあらゆる醜態(女の醜い面)を曝すフアナ。恋は盲目ですね。
狂おしい一途な「狂愛」ーMad Loveー
それにしても、フアナのあの壊れ様(夫や側近などへの罵倒など数々の壊れ・荒れっぷりはすさまじいのですが、
夫の浮気相手(女官)をつきとめ、その女の命である髪を切り刻むシーンや、
宮廷内の個室で、自力で出産したかと思えば、自らの手と口=歯で臍の緒をブチっと引きちぎって、あとは平然とした態度で去っていくという出産シーンなどは、演技とはいえ、すばらしいものがあります。
客観的に見て、ものすごく狂っていると思いますが、ある意味、人間らしくもあり、とてもリアルに描かれていると思いました。
スペイン映画らしく、女の情念が渦巻くドロドロの愛憎物語なのですが、西洋の歴史、とくにスペインの歴史や伝記モノが大好きな私には、映像も綺麗で見ごたえもあるので、個人的には好きな作品です。
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