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情熱の画家 フリーダ・カーロの生涯

アルゼンチンの革命家チェ・ゲバラや大統領夫人エビータ、スペインの女王フアナなど、スペインやラテンアメリカの人物はマイナーに見えて、意外と注目され映画化されています。フリーダもまたその一人です。

ラテン系女性は、情熱的なイメージがあり、個性的でとても成熟して見えます。内面から滲み出る情熱(時に狂気)は、その美しさをさらに際立たせているように思います。そんな彼女たちの恋愛もやはり激しく、強烈で、色々な形があります。

例えば、このブログで紹介した女性を例に挙げると、

(1)フアナのように、生涯一人の男だけをひたすら一途に愛する女。

(2)カルメンのように、燃えるように情熱的だけれど、短く儚い恋を重ねる女。

そして、今回紹介する
(3)フリーダのように、数多くの恋愛を楽しみつつも、結局は一つの愛を貫く女。

良く言えば、情熱的なのですが、女の情念(愛やら嫉妬やら欲やら)が描かれ、人間関係もドロドロなものが多いです。でも、そんな彼女たちの魅力に惹かれて止まない私です。

1910年のメキシコ革命の起こるちょっと前(1907年)にフリーダ・カーロはメキシコで生まれ、激動の時代に愛と苦悩の波瀾に満ちた人生を歩みました。彼女の生涯をいくつかのキーワードで示してみてもあまりにもドラマチック。

バス事故―鉄棒に処女を奪われた

1925年9月。18歳の頃、恋人と乗っていたバスが、路面電車と衝突。この事故で彼女の背骨、肋骨、骨盤、鎖骨は砕け、右足はつぶれ、もともと小児麻痺で数年前から不自由だった右脚は、10ヶ所以上が骨折したといいます。フリーダは瓦礫の中で血と金粉にまみれ. 半裸状態で鉄棒に突き刺されて発見されました(鉄棒は左臀部から膣を貫通して腹部に深い傷を残し、子供も産めない身体に)。「バスの鉄棒に処女を奪われた」という彼女の言葉は有名です。

夫となる画家ディエゴ・リベラとの出会い

21歳の年齢差を超え、フリーダとディエゴは、「互いのために生まれた」と信じ、相手への忠誠を誓いました。キリスト教において「愛」は、①エロスέρως(主に男女関係の性愛、肉体的な愛)、②ストルゲーστοργή(主に親子関係など血のつながりのある人への愛だと思っていたのですが、ウィキペディアによると師弟関係にある相手への尊敬を含み、従う、崇高な愛でもあるとか…)、③フィーリアφιλία(友情愛)、 ④アガペーαγάπη(キリスト教でいう一般的な「愛」であり、万人に平等な、無条件の愛。神の愛)… という具合に、主に四つに分類されます。このなかの愛でいうと、フリーダとディエゴの愛は、男女の関係にある以上、①エロスはもちろんですが、根本的には、②ストルゲーといえるでしょうか(ストルゲーに師弟関係も含まれるのならば)。個人的に、とても関心のある愛です。

夫の裏切りへの苦悩(浮気、嫉妬、流産)

しかし、結婚生活は順風満帆ではなく、女好きな夫ディエゴの浮気に悩まされる日々。あろうことか、この男、フリーダの最愛の妹クリスティーナにまで手をだしたことも!このことはとりわけ彼女の心を傷つけ女(妻)としてのプライドを傷つけずたずたにしました。愛する人の裏切りからくる絶望感と嫉妬心は、(たとえば女王フアナのような)もとは大人しく、純粋で従順な、優しい女性が怒りと悔しさで気が狂ってしまうほど女性にとって大きなダメージを負う(愛憎が強すぎれば強すぎるほど、時に相手や自分自身をも傷つけてしまうほど)恐ろしいものです。フリーダも例外ではなく、夫を心そこ愛している彼女にとって、それはもう、腸が煮えくりかえるような思いだったことでしょう。

「私は人生でふたつの大きな事故に見舞われた。 ひとつは路面電車にひかれたこと。もうひとつはディエゴよ」

とまでいう始末。ショックは大きく、何度か子どもを身ごもるも流産するほどにまで。しかし、そんな中でも、(“目には目をと”いわんばかりに“浮気には浮気で仕返し”するものの(←ここが一途なフアナとの違いなのですが)根本的には最後まで夫への(一つの)愛を貫いたということに、同じ女性として感銘を受けました。

事故の後遺症と苦悩(激痛)

精神的苦痛に加え、後遺症による激痛が彼女を襲いました。激痛と苦しみの中で貫いた夫への愛-様々な想いを絵にフリーダは、彼女自身の生涯と夫リベラへの愛を、痛みと苦悩と嘆きで綴り、心からあふれ出る想いをすべて絵にぶつけました。素晴らしいのはここです。事故の後遺症と、夫の度重なる浮気や裏切りへの苦痛と苦しみに耐えながらも、夫を束縛したり罵倒しようとはせず(勿論フリーダも黙って耐えたわけではなく、浮気や恋の仕返しはしたもののそれでも最後まで夫への愛は保たれたのです)、ひたすら自らの想い(夫への愛とそれに付随する様々な負の感情)を芸術にぶつけました。

彼女の作品は、いずれも見ているだけで、彼女の心と身体の痛みが伝わります。これが彼女なりの愛や苦しみの表現だったのでしょうか。このように、見る人の心にひしひしと言葉をこえた何か(情熱、愛、嫉妬、苦しみ、哀しみなど)が伝わってくるという意味で、メッセージ色が強い作品であり、強烈なまでにひきつけられるので、少し暗さはあるものの、個人的には大好きな画家です。

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